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「そうですか、いえ、こちらはいつでも……、ええ、ご検討下さい」
電話口に受話器を戻し、芳人は小さなため息をつく。
一〇の陽射しは穏やかだった
窓の外では銀杏並木が、山吹色に色付き始めている。
青山通りを行く人の装いは、どこか羽根が生えるように軽く、今年は暖冬と聞くので、そのせいだろうか。
ここ葛城店内も、紅葉や山茶花を模す生和菓子が並び、深まる秋の気配を漂わせている。
けれど、客がいないのは、相変わらずだった。
間もなく始まる歳暮の問い合わせも、ほとんどない。
今の電話も、粗品で葛城の菓子を使う取引先からだったが、今後しばらく付き合いを見合わせたいとのことだ。
けれど、それは些少にすぎない。
先日は、伊丹デパートから契約解消を仄めかされた。
四条銀行からは、融資の見直しを求められている。
辛うじて、東條流からの、茶会で使う茶菓子の用命だけは継続中だが、それもいつまでつづくか分からない。
あの日から。
この場所で、孝成たちから不埒な行為を仕掛けられたあの日から。
葛城のおもだつ取引先の感触はすこぶる悪かった。
いかに営業活動しようとも、経営状態はいよいよ差し迫るものになっている。
ガラスケース越しの販売スペースに佇み、芳人はもう一度ため息をついた。
原因を考えれば、あの日のことしか思い浮かばなかった。
『覚えてろ』という孝成の言葉通り、自分が孝成に逆らった仕返しだ。
この状況は、ほぼ一〇〇パーセント間違いなく、彼の報復なのだろう―――と。
東條流の次期家元であるがゆえ、孝成のコネクションは計り知れない。
手回し根回し、葛城を潰すぐらい簡単だろう。
そして、そう考えることは、芳人を屈辱的な気分にする。
あんなことを、当然のごとく要求する孝成に、憎しみにも似る憤りを感じ、報復を仕事に持ち込むやり方に、腹立ちは募るばかりだが。
彼の悪辣なやり方は葛城を追い詰める。
葛城を、芳人を、追い詰めるのだ。
どうして………。
思わずにいられない。
孝成は、どうしてここまで自分へ嫌がらせするのだろう。
嫌っていると、分かるだろうに。
彼も自分に、快い気持ちは一切ないだろうに。
ならば、関わらねばいいものを、こうまで難癖付ける理由が、分からなかった。
由緒ある東條流の次期家元として、新興の葛城を成金だと蔑むのは仕方ないとしても。
身体を好き勝手されたり、仕事を阻害されたりする覚えはないはずなのに―――……。
ガラスケースを拳で叩き、芳人は唇を噛みしめる。
だけど、孝成に屈服するつもりはさらさらなかった。
腹立たしくあっても、その感情に呑まれるほど、芳人は弱くない。
将来、経営に携わる者としてのプライドや芯の強さ、生来の気の強さを持っている。
だから、芳人は、孝成に振り回されぬため、何をするべきかを考える。
孝成にこれ以上詮索されないためにはどうすればいいか―――それには、葛城を、かつての順風満帆な経営状態にするべきだろう。
葛城は、和菓子に色味や視覚インパクトを与えることで、世間の注目を浴びてきた。
けれど、インパクトのあるものは一時の流行になっても、長く人心に定着するのは難しい。
ならば、どうすればいいか。
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